保育園でのケガ・事故を防ぐ「生きたハザードマップ」の作り方~子どもに「10より100の経験」を可能にする安全管理とは
2026.01.08
「にんげん力」を育むために、子どもに10よりも100の経験の機会を創ることを大切にするどろんこ会グループ。そのすべての経験の土台となるのが、子どもが「安心・安全」に活動できる環境づくりです。どろんこ会グループでは、安全管理に関するマニュアルを独自に策定し、全園で統一した取り組みを行っています。
ケガや事故を未然に防ぐため、園内外の危険箇所を可視化する「ハザードマップ」の作成は、その代表的な取り組みの一つです。マニュアルの策定から約10年。子どもたちの成長と共に進化し続けるハザードマップの「今」をご紹介します。

今回訪れたのは、東京都新宿区にあるメリー★ポピンズ 神楽坂ルームです。現在同園が運用しているハザードマップは16枚。その一枚一枚に、単なる地図上の情報だけではない、たくさんの思いが凝縮されていました。
子どもの成長と共に「生きたハザードマップ」を作る
どろんこ会グループのハザードマップは、大きく「園内」と「園外」の2種類に分けられます。園内は施設や園庭の危険箇所を、園外は散歩や戸外活動の行き先、およびそのルート上の危険箇所をまとめた地図です。
ハザードマップの運用について、どろんこ会グループでは「保育品質マニュアル」において以下の要件を定めています。
- 年に一度、全ての危険箇所を洗い出す
- 定期的に点検を行い、見直しと更新を行う
- 新たな危険箇所を見つけた場合は随時更新する
※1「保育品質マニュアル」危機管理(予防)より一部抜粋
これらの取り組みは、定期的な内部監査や第三者評価機関による審査を通じ、高い安全基準を担保しています。ハザードマップの作成方法について、メリー★ポピンズ 神楽坂ルームの森谷副施設長に話を聞きました。

森谷:ずばり、情報の「読み取りやすさ」です。保育の現場では、限られた時間の中で危険箇所を把握するシーンがあります。近隣の危険箇所については日頃から会議や研修を通して把握していますが、例えば散歩前に、これから行く公園やルート上の危険をさっと復習したいときに役立つのがハザードマップです。そのため、「一目で要点が把握できるかどうか」ーこれが重要なポイントとなります。
ー具体的には、どのような工夫をしていますか?森谷:まず、「上から見た見取り図」であることにこだわっています。誰が見ても同じように、正確に情報を読み取りやすいからです。

森谷:一般的に人の目線で撮影した現場写真を掲載することもありますが、見る角度によって景色が異なったり、死角が生じたりすることがあります。そのためどろんこ会グループでは、言葉では伝えにくい特殊なケースを除き写真は極力掲載していません。
さらに、「情報の取捨選択」も大切です。危険箇所がもれなく洗い出されていることは前提として、すべてを記載すると情報過多で、注意が分散されてしまいます。注意を向けるべきポイントをきちんと絞り、各園の状況に合わせて最適化することが重要です。
ー掲載する情報の優先度はどのように決めていますか?森谷:実際にケガや事故が起きた箇所や、現在工事中の箇所など、重要度や時事性の高いものから掲載していきます。また、子どもの年齢や人数、発達状況、特性、職員の安全管理スキルなど、その園に在籍する「人」に合わせることも重要です。

森谷:はい。例えば、0~2歳児が中心の小規模園と、5歳児まで在籍する大規模園では、注意する項目が異なります。歩ける子どもが増えると飛び出しの危険性も高まりますし、新卒で入職したスタッフの安全管理スキルが成長すれば、基礎基本の留意事項を減らすことができる。「その時、その園」ならではの情報を厳選し、子どもやスタッフの成長と共にマップも進化させていくーそれが「生きたハザードマップ」の作り方です。
どろんこ会グループのハザードマップは、厳格な危機管理基準に基づいて整備されているのと同時に、そこで過ごす「人」の変化を見届ける細やかな視点も大切にされていました。
危険を排除しすぎず「安全に失敗する」ために
秋空の下、日課の散歩に同行しました。
ハザードマップは玄関先に保管してあり、いつでも誰でも、見たい時にすぐ確認できるようになっています。出発前に、目的地の公園とルート上の危険を素早くチェックします。

全員、出発の準備が整いました。水色のビブスを着たスタッフが人数確認を行う「人数確認リーダー」です。指さし確認で子どもの人数を数えた後、別のスタッフ一人によるダブルチェックを行い、いざ出発。今日は子どもの足で歩いて20分程度の鶴巻南公園に向かいます。
大きな通りに面した歩道を一直線に進みます。歩道が狭いため、縦2列を崩さずまっすぐに。すれ違う自転車との接触や、後ろに人がつかえていないか、常に注意を払います。
交差点に差し掛かりました。ここはハザードマップ上の要チェックポイントです。4車線にまたがる長い横断歩道ですが、信号が短時間で切り替わるため、一気に渡り切ることが肝要です。「信号が短いから気をつけて渡ろうね」「あと少し、がんばろう!」。子どもたちに声をかけながら、足早に渡ります。

さらに歩道を進みます。道すがら、偶然通りかかった歩行者や近所のお店の方々など、たくさんの大人と笑顔で挨拶を交わします。「人対人コミュニケーション」を大切にするどろんこ会グループでは、園外ですれ違ったすべての人と挨拶を交わすことを園の約束としています。
どろんこ会の保育方針「人対人コミュニケーション」1人でも多くの人と出会い触れ合うことで、自分の意思を表現し、伝える力を育む。

角を一つ曲がり、公園に到着しました。公園の入り口で再び人数チェックを行います。散歩では通常「①出発時、②公園到着時、③公園出発時、④帰園時、⑤トイレ前後などの行動変換時」に人数確認を行い、見失い事故を防ぎます。

続いて公園内の「危険物」を確認します。公園全体を見て回り、タバコの吸い殻や食べ残しの飲食物など、子どもの危険物・不衛生物になりうるものが落ちていないかチェックします。この時、ゴミを拾いながら公園にいる方々への挨拶も欠かしません。
猪俣施設長は、「ちょっとした変化にすぐ気づけるよう、公園にあるものや集う人をただの景色にしてはいけないと考えています」と話します。公園によくいらっしゃる地域の方々と顔なじみになれば、不審者に気づきやすくなるメリットもあるからだといいます。
今日は砂場で遊ぶことにしました。保育士は全体を見渡しやすい角に立ち、すべての子どもに目を配ります。
1歳の子どもがハイハイで砂場に近づきました。そこには段差があります。注意深く見守っていると、子ども自身で危険を察知したのか、自ら後ろに下がりました。

公園のハザードマップには、このような「段差注意」、出入口ドアの「指はさみ注意」などのポイントを掲載しています。一方、危険を予測しても、子どものすべての活動を制止する訳ではありません。危険を完全に排除すると、子どもが体験によって自ら学ぶ機会を奪ってしまうことになるからです。子どもが安全に失敗できるよう見守ることも、スタッフの大切な仕事です。

公園でたっぷり2時間遊びました。お茶を飲んで一息ついたら、園に戻ります。帰り道はどの子どももヘトヘト。こんな時こそ子ども同士でつなぐ手が、互いの力になります。
「手をつなぐことは安全管理だけでなく、情緒的なつながりも育みます」と森谷副施設長。疲れて歩くことに集中できなくても、友だち同士で手をつなげば自然に力が湧いてきます。この日も子ども同士、「(手を)つないでがんばれがんばれ!」「(園まで)もうちょっとだね」と声をかけ合う姿がありました。

全員無事、園にたどり着きました。太陽の下でたっぷり外遊びを楽しんだ子どもたちは食欲も旺盛です。手を洗って着替えたら、みんなの大好きな給食の時間が始まります。
安全管理の目的は、子どもが安心して「センス・オブ・ワンダー」を体験できること
散歩や戸外活動において新たに発見した危険箇所は、業務用スマートフォンのチャット機能を活用し、その日のうちにスタッフ間で共有します。ハザードマップにも付箋で追記し、一時的に記録しておきます。
ハザードマップの更新を継続するポイントは「労力最小限で行うこと」と森谷副施設長。ハザードマップを作成すること自体が目的になったり、過剰な業務がスタッフの負担になったりしないようにするためです。
同時に、スタッフの安全管理意識を育成することも大切です。どろんこ会グループでは各園で月に一度「事故防止委員会」を開き、実際に起きたヒヤリハットやケガ・事故について入念に要因を分析。対策を話し合います。スタッフ全員が顔を揃え、膝を突き合わせてじっくり話し合う過程で、安全管理に対する意識や主体性が育まれていきます。
最後に、猪俣施設長に安全対策にかける思いを聞きました。
ーどろんこ会グループでは、厳格な基準に基づき安全管理対策を行っています。その根底にある思いは何でしょうか。猪俣:「子どもが安心して、その活動を心から楽しめるように」という願いに尽きます。例えば散歩でも、寄り道が楽しいと感じられるかどうかは大切だと思います。子どもの目線で見ると楽しいものがいっぱいあるのですよね。子どもがどんぐりや石ころを拾ったら、「よかったね、いいもの見つけたね」と笑顔で受け止めたい。その目線の先にあるものを見届け、危険があれば一足先に気づき、子どもが安全に好奇心を満たすことができる。そのような保育環境を実現するための安全管理なのだと考えています。

猪俣:まず、何でも楽しくないと子どもの好奇心は刺激されません。危険だからと制止されてばかりでは、外に出かけることも苦痛になってしまいます。好きな先生と一緒に安心して安全に遊び切ることができるからこそ、散歩も楽しいと思える。子どもの「センス・オブ・ワンダー」を大切に守り、育む環境を整えていきたいと思います。
どろんこ会の保育方針「センス・オブ・ワンダー」自然の中での直接体験を通じて、豊かな心情・思考力・学びに向かう力を育てる。

猪俣:はい。日頃から地域の方々と接することで、危ない場所や最新の情報を教えていただけることがあります。また、普段から交流があることで、震災や事件など万が一の時には互いに助け合う関係性を育むこともできます。「守ってください」だけでなく、「頼ってください」とも言える存在でありたい。そのためにも、普段から挨拶やちょっとした声がけの際には「メリー★ポピンズ 神楽坂ルームです」と名乗るようにしています。「あの場所のあの人だ」と認識してもらえると嬉しいですね。

猪俣:ある時、高齢者の方が「今のご時世、話しかけるだけで嫌な顔をされることもあるけれど、メリー★ポピンズさんはいつも笑顔で応えてくれるのでありがたい」とお話ししてくださったことがありました。地域の大人みんなで子どもを育てる空気を作り出していければと考えています。
子育て目標として、「センス・オブ・ワンダー」と「人対人コミュニケーション」を掲げるどろんこ会グループ。日々の安全管理の取り組みにおいても、この2つの目標がしっかり根付いていました。
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