保育者の探究心を支える「子育て探究費」制度

2021.02.04

#保育#発達支援

中里どろんこ保育園 全施設

どろんこ会グループは、各施設で取り組んでいる子どもの「6つの力」を育む活動をさらに発展させるため、2019年度より「子育て探究費」制度を設けました。保育園と発達支援つむぎの全施設、全職員対象に「6 つの力」を育む取り組みの公募を行い、プレゼン審査を通過した合計9チームが各賞に応じて活動費の助成を受けられる独自の制度です。

今回は、2019年度の受賞チームである中里どろんこ保育園(東京都清瀬市)の小川園長に実際の取り組みを、企画・運営者の桑原運営本部長に「子育て探究費」制度の目的についてインタビューしました。

保育者の探究を深めるための「子育て探究費」制度

2018年に新保育所保育指針が施行され、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿(10の姿)」が明示されました。この「10の姿」に基づき、どろんこ会グループも「子育てで身につく6つの力」を公表しました。子どもの意欲や興味を引き出し、子ども自らが考えて行動できる環境を、日々の保育でどのように実現するのか。保育者が探究をより深められるようにと生まれた制度が「子育て探究費」です。

6つの力の図
「10の姿」に基づいて考えられた「6つの力」

公募は全施設、全職員対象で応募単位は1名から、所属施設を越えてつながる職員同士の応募も可能となっています。参加チームはそれぞれ「子育て探究費」で実現したい取り組みを資料にまとめ、プレゼン審査に臨みます。安永理事長、高堀代表取締役をはじめ、運営部の役職者や各エリアのスーパーバイザーを担う施設長数名が審査員となり、内容の精度や熱量など様々な視点から各チームの取り組みを評価し、受賞チームを決定します。

審査会の様子
審査会の様子(2019年度)

中里どろんこ保育園の探究:身近に自然を。園庭の「ビオトープ」づくり

「子育て探究費」制度が導入された2019年度、中里どろんこ保育園は開園2年目を迎えた年でした。「3年目に向けて何か新しい挑戦ができないか」と職員同士が話し合って考えたのが、園内に池や川を作り自然の生態系が生まれる「ビオトープ」を園内に設置すること。小川園長に、当時の取り組みについてインタビューしました。

—ビオトープのアイデアは、どのように生まれたのですか?

中里どろんこ保育園は開園したばかりだったので、子どもたちもまだ環境に慣れていないと感じることがありました。そんな時、入社一年目の職員から「子どもたちの身近に自然がある環境を作りたい」という提案があったんです。私自身、以前に参加した研修で、自然がもたらすリラックス効果について学んだこともあり、園内のビオトープの設置にチャレンジしてみようと思いました。

—プレゼン審査に向けての準備はいかがでしたか?

日々の業務と並行して、資料や発表の準備をするのが大変でした。資料を作成する担当、当日発表する担当など、職員同士で分担しながら準備を進めていきました。当日を想定して他の職員に観客役になってもらい、プレゼンテーションの練習を重ねたりもしました。

プレゼンをする職員
中里どろんこ保育園のプレゼンテーション(2019年度)

—実際に園庭にビオトープをつくる時に、難しかった点や印象に残っていることを教えてください。

他の園で有志の保護者で結成された「おやじの会」の話を聞いていて、中里どろんこ保育園でも立ち上げたいと思い、まずは参加してくださりそうな方にお声がけをしました。そうして集まってくださった保護者と職員で、いろいろ調べながら計画を立てたり、独学で設計図を引いたりと、試行錯誤しながら進めていきました。

中でも苦労したのは、予算ですね。もともとはビニールシートを敷いて大きな池を作ろうと計画していたのですが、そのためには砂利や種類の異なる土が必要だったり、石を揃えなければいけなかったりと、予算内で実現するのが難しいことが分かりました。

水槽の穴を掘る職員と保護者
水槽を埋める穴を掘る作業

そこで、知り合いの造園業の方に相談に行ったところ、使っていない水槽を無償でいただけることになり、コンパクトでも水漏れしない池に方向転換したんです。「おやじの会」の皆さんもたくさん調べてくださり、足りないものは寄付や中古で譲っていただくなど、地域の方々の協力もいただきながら進めていきました。

—ビオトープを完成させるために工夫したことはありますか?

職員や保護者の目にとまりやすいところに進捗状況を掲載し、みんなで共有できるようにしました。また、完成した池の周りに職員全員で植栽を行うなど、職員も保護者も一丸となって協力し合えたことはとてもよい経験となりました。その様子を子どもたちも見ていて、「お父さんが掘った穴だ!」と喜んでいる姿も見られました。

植栽する職員たち
職員全員でビオトープの周りに植栽

—ビオトープが完成した時の感想と子どもたちの反応を教えてください

水の音を聞いたり魚の動きを見たりと、ビオトープがあることで子どもたちは意識をしなくても自然を感じることができます。そんな環境が保育の一部になることで、子どもたちが意図せずして安らげる環境が実現できたことに達成感を感じています。

小川でザリガニを捕まえる子どもたち
ビオトープに住んでもらうザリガニは子どもたちが捕まえました
完成したビオトープ
周りに草が茂り、生態系ができてきました

また、ビオトープに住む生物は絶えず変化していて、最近ではヤゴが育つなど、自然な池になってきました。時にはザリガニが魚を食べてしまうこともありますが、それも、自然の生態系の中で生命の循環を知る良い機会になればと思っています。

氷がはったビオトープ
凍ったビオトープを見て「中にいる金魚は大丈夫なのかな?」と話している二人

職員だけではなく、保護者や地域の方々と子どもの成長を見守る喜び

「子育て探究費」の企画・運営側の想いについて、桑原運営本部長にインタビューしました。

—2019年の中里どろんこ保育園のプロジェクトを選ぶ決め手となったポイントを教えてください。

いくつかありますが、施設長や意見の強い人が一方的に決めた計画ではなく、日頃から子どもの動きを見ている職員たちが、「こんなものを作ってみたい」と考えたボトムアップでの提案であったこと。また、子どもの6つの力のうち「生死を知る」をはじめとして、まんべんなく効果を発揮しそうな計画だったこと。職員だけではなく、保護者や地域の方々と一緒に作り上げることができそうな内容だったことがポイントでした。

中里どろんこ6つの力報告書
ビオトープを通じて育んだ「6つの力」の報告書

—参加した全チームのプレゼンテーションはいかがでしたか?

2019年はこの取り組み自体が初めてだったこともあり、運営・審査側も手探りな状態でした。その中で14チームがプレゼンテーションを行いましたが、どれも内容が素晴らしく熱意があり、受賞チームを決めるのが難しいほどハイレベルな戦いだったと思います。日常のコミュニケーション以上に情熱を見せてくれた職員も多く、心を動かされた場面もありました。

また、受賞チームの進捗報告会を定期的に実施したのですが、様々な困難が立ちはだかり計画通り進まないチームや、それを乗り越えて新たな気付きを得たチームが多くあり、発表者も審査員も全員涙するというシーンもありました。職員の子どもの成長を願う気持ちと姿勢に感動し、2020年以降も継続して実施することが決まっています。

探究費の報告会
受賞チームは途中報告会も実施(2019年度)

—「子育て探究費」を通して、今後、実現したいことはありますか?

子育てから世界を変えるためには、保育者同士はもとより、保育者と保護者や地域の方々の子育ての価値観が少しづつでも近づいていくことが必要だと考えています。そのためには、一人ひとりの職員も含め、園全体が毎日真摯に子どもの成長に寄り添い、観察し、明日の子どもたちのために、環境を考え続けていかねばなりません。この努力を継続して社会に発信していくことで、日本の子育てを更新していく一助にできればと思っています。

プレゼンの順番を待つ参加チーム(2019年度に撮影)
プレゼンの順番を待つ参加チーム(2019年度)

どろんこ会グループでは「子育て探究費」をはじめ、現場視点でのアイディアを実現する様々な取り組みを行っています。今回ご紹介した「子育て探究費」には、2019年度は14チーム、2020年度は28チームがエントリーしました。このように、毎年挑戦する園が増えているのも、「子どものために必要な本物の経験」はどのようなものか、日頃から職員一人ひとりが考えて行動しているからこそ。2021年はどんなアイディアが生まれるのか、引き続き、追いかけていきたいと思います。

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