食べることは生きること。生きる力を育む乳幼児期の「食育」とは?

2021.04.15

#保育

食育

どろんこ会グループでは、保育士や発達支援の職員などが講師となり、子育ての現場で役立つ実践的なスキルを学び合う「子育てスキル講座」を開催しています。今回は乳幼児期の食育をテーマにした講座「『食べる』には『生きる力』が詰まっている」で講師を務めた八山田どろんこ保育園(福島県郡山市)の管理栄養士の滝田さんに、乳幼児期の「食」がなぜ大切なのかをインタビューしました。

食べることは生きること。乳幼児期の「食」が大切な理由

食べることは、乳幼児期の心と体の発達に深く関係しています。当日の講座の内容も踏まえて、滝田さんに子どもたちの「生きる力を育む食育」について質問してみました。

—乳幼児期の「食育」は、どのようなことを目指しているのでしょうか?

厚生労働省では、食育の目標実現に向けて「5つの子ども像」という具体的な子どもの姿を示しています。この「5つの子ども像」とは、保育所保育指針にある保育の目標を「食育」の観点から表したものです。

5つの子ども像
厚生労働省が示す食育における「5つの子ども像」から作成

食と保育は別々の領域ではなく、お互いが影響し合いながら、一人ひとりの生活の中で「生きる力」の基礎を育んでいくものだと考えています。どろんこ会グループでも、子どもたちの「食を営む力」の育成に取り組むことで、健康で望ましい未来を子どもたち自身が実現できる基礎を育むことを目指しています。

—乳児期と言えば「手づかみ食べ」。これも生きる力を育むのに必要な行為なのでしょうか?

「手づかみ食べ」で育まれる力は大きく3つあり、脳・体・心の発達と言われています。手や指先は「突き出た大脳」 と呼ばれ、手をたくさん使うことは脳にたくさん刺激を与えることにつながります。また、手づかみ食べは手で触る・目で見る・匂いをかぐ・音を聴く・味わうなど、五感すべてを活用するため、物事を深く捉える力が培われていきます。さらに、手づかみ食べにより、「自分でやってみよう」とする気持ちが生まれ、その気持ちが尊重されると好奇心が育まれていくのです。

手づかみ食べをする子ども
手づかみ食べは意欲や好奇心にもつながる

—乳幼児期の「食育」で大切なことは何ですか?

よく遊び、お腹をすかせて食事にむかい、満たされて眠りにつくことだと考えています。子どもたちにとって当たり前なことですが、なかなか現代の生活では実現するのが難しい時もあります。

「からだ育ちは心育ち」と言うように、食は心と体をつなぐものです。安心して意欲的に食べられる環境が整ったとき、子どもたちは思い切り遊び、ぐっすり眠ることができ、自分の力を発揮することができるのです。乳幼児期の食の充実は、食生活の基礎をつくるだけではなく、その子の心の発達の土台をつくることにもつながっています。

落ち葉に興味を持つ子ども
日中は外遊びで、たくさん五感を刺激する

子どもを真ん中において、すべての大人が関わる「食」

—どろんこ会グループが「食育」において大切にしていることは何でしょうか?

子どもたちの食生活のひとつひとつが満たされて自信を持って次のステップに進めるよう、どろんこ会グループでは、すべての身近な大人が子どもたちに関わります。給食も子どもたちと一緒に食べます。子どもたちが「食」を通して成長していく姿は、調理の職員だけが実現するものではなく、職種を超えたすべての大人たちが見守り育むものなのです。一人ひとりの子どもにとって良いバランスとなるように、適度な関わり合いを心がけています。

給食の様子
大人も一緒に食べる給食(2019年撮影)

—子ども主体の「食育」とは、具体的にどうすれば良いのでしょうか?

まず、散らかすのは当たり前だと思ってください。子どもは物の見え方が、大人と異なります。そして目の前の食べ物に集中しすぎて、こぼすことを失敗とは思っていません。また、「おいしい?」「こっちは?」とついついやりすぎてしまう大人目線の言葉がけや誘導ですが、実は思っている以上に気が散ってしまうことも。サポートが必要なときは子どもからちゃんと知らせてくれます。

参加者同士の意見交換も大切にする子育てスキル講座

「子育てスキル講座」では、一方的に講義を聞くだけではなく、参加者同士の意見交換も行っています。今回の講座でも「『食べる』の中で大切にしていきたいことは何ですか?」というテーマで、10名前後のグループワークを行いました。グループワークや質疑応答では、以下のような話や質問がありました。

食育スキル講座の参加者
講座には全国各地の職員がオンラインで参加
  • 大人も一緒に食べる中で、「美味しいね」という言葉がけをしすぎてしまうのも良くないということにあらためて気づきました。子どもの 「間」 や集中する気持ちを見守っていきたいと思いました。
  • 給食の中でつい「最後まで食べて」「もう少し食べて」を言葉をかけをしてしまっていました。今日の講座は普段の給食で、本当の意味で子どもたちが食べたい食材や量を自分自身で選べているかを、あらためて考えるきっかけになりました。
  • 園の環境によっては、「手づかみ食べ」ではなく、離乳食を食べさせてあげることしかできないのですが、気をつけることはありますか?

最後の質問に対し、滝田さんは以下のようにコメントしていました。

「環境はそれぞれ違いますし、必ず「手づかみ食べ」をしなければいけないわけではありません。こだわりすぎると子どもも大人も苦しくなってしまいますね。例えば、離乳食をあげるときは、大人の都合で一方的に「あーん」と言ってあげるのではなく、子どものペースに合わせて進めていく。子どもは、ちゃんと次のサインをだしてくれますよ。視線や仕草、『あー』『うー』といったちょっとした言葉。それを見逃さずに、子どものサインに応えながら離乳食を一緒に楽しんで見てください。」

講師を務めた滝田さん
講師を務めた滝田さん

最後に、「『食』の中に詰まっているたくさんのことを伝えるために大切なことは、子どもたちの周りにいるすべての大人が真摯に食に向き合い、楽しく美味しく食べる姿を見せ続けることです。明日からの子どもたちとの食事の時間が、楽しく素敵なものになりますように」と話す滝田さん。

「食」は生きる意欲を育み、より良く生きるための基礎を培う大切な行為です。食べることは人間にとってどういうことなのか、子どもたちにとってどのような体験であるべきなのか、あらためて考えるきっかけとなった子育てスキル講座でした。

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