危ない?汚い?それでも、どろんこ会が「裸足保育」を続ける理由。─足裏から育つ創造力と、生き抜く力【後編】
2026.10.08
1998年の設立以来、どろんこ会が大切に続けてきた「裸足保育」の魅力に迫る本連載。後編では、万博公園どろんこ保育園の田中施設長へのインタビューをお届けします。現場での工夫や子どもたちに向ける眼差しから、その根底にある保育信念が見えてきました。
危ない?汚い?それでも、どろんこ会が「裸足保育」を続ける理由。─足裏から育つ創造力と、生き抜く力【前編】

「過程」を共に噛みしめる、どろんこ流の眼差し
─子どもたちは最初から戸外で裸足になれるものでしょうか?田中:いいえ、初めから戸外での裸足に慣れている子ばかりではありません。
特に0歳児クラスの場合、いきなり泥の中へ誘うようなことはせず、まずはブルーシートなどの敷物に座るところからスタートします。足に比べて「手」の方が土や泥に対する抵抗感が少ないようですね。芝生や小石をちょっとつまんでみたり、手でお山や泥だんごを作って感触を確かめたりしながら、少しずつ自分のペースで世界を広げていきます。
私たちは「裸足になろうね」といった言葉による誘導もしません。途中入園の子も含めて、周囲の友達の楽しそうな姿を見ながら、「靴を脱いでみようかな」「ちょっと入ってみようかな」と、子ども自身の心が動くまでじっくり見守ります。

田中:心が育とうとしている「瞬間」を見逃さず、そっと背中を押す存在でありたいと思っています。
以前、アリ1匹でも悲鳴を上げるほど虫や自然が苦手で、裸足になるなんて到底無理、という子がいました。でもある日、友達が木登りをする姿を見て「自分も挑戦したい」という芽が生まれたのです。
最初は靴のまま登ろうとしましたが、靴底が木に挟まってしまいました。すると「裸足の方が登りやすいかもしれない」と気づいたのでしょう。不安そうに私を見ました。そこで指示を出すのではなく、ただ優しく頷いて見守ると、その子は意を決して靴を脱ぎ、見事に登り切ったのです。
─小さな変化や瞬間を見逃さない観察眼は、まさにプロの技ですね。田中:ただ、私たちはそのとき安易に「すごい!」と褒め讃えることもしません。言葉は時に、目に見える成果だけを取り出してしまうことがあるからです。大切なのは、その子が時間をかけて葛藤し、自ら一歩を踏み出した過程そのもの。「できた」という達成感を一緒に味わうために、ただ目を合わせたりハイタッチをしたりして、しっかり応える。そのような関わりを心がけています。

田中:傾斜やデコボコのある園庭を裸足やハイハイで移動することで、体幹やバランス感覚が自然と鍛えられていきます。
傾斜が急な場所では「後ろ向きで降りてみよう」、雨上がりで土が滑りやすい日には「横向きで歩いてみよう」など、場合に応じて身体の使い方を感覚的に身につけていくのです。
これは、どろんこ会が大切にしている「生き抜く力」に欠かせない、危険なものとの適切な距離の取り方を体得している姿でもあります。ちなみに開園当初はよく転んでいたスタッフも、今ではすっかり転ばなくなりました(笑)。

田中:実は、保護者の方から「服が汚れて困る」「裸足は危ない」といったご相談を受けることはほとんどありません。見学時や入園前の段階から、裸足保育の目的と方法を丁寧にお伝えしているからだと思います。
また、お迎えの際に「今日は自分から水たまりまで歩いたんですよ」「お友達と泥だらけになりながら、すごく誇らしげな顔をしていました」と、日々の挑戦や成長を細やかに共有しています。すると、保護者の皆様も自然と温かく見守る応援団になってくださいます。
ある園では保護者同士で「泥汚れにはこの洗剤が効く!」なんていう微笑ましい情報交換も生まれたりするようです。ご家庭の理解と協力があるからこそ、子どもたちは毎日安心して遊び切ることができるのですね。

田中:裸足保育って、実は私たち保育者にとってもすごく楽しいんです!
最初は抵抗感があったスタッフも、気候の良い時期に裸足で大地を踏みしめてみると「あ、本当に気持ちいい」と驚きます。それは子どもが毎日感じている感覚そのもの。 そうやって大人がのびのびと楽しむ姿が、子どもたちが安心して活動に没頭できる土壌にもなるのだと感じます。

田中:「遊びの天才!」と心から感動しますし、毎日その様子を見られることが本当に嬉しいのです。
例えばある日、園庭の土がまだ硬い状態の時に、子ども同士で「これ、恐竜の化石に似てる!」と化石を発掘する遊びが始まりました。そこから「化石の間に川を通そう」と水を流し始め、「恐竜島」になり、土が柔らかくなってくると「恐竜に食べられちゃった!」と脚に泥をかけたり、「ここに温泉があったよ」と泥池に浸かってみたり──。土や泥の硬さの変化に合わせて空想の物語がどんどん進み、2時間でも3時間でも遊び込んでしまうのです。

田中:子どもが自分たちの世界に没頭しているときには、こちらから言葉を掛け過ぎず「応答的な最小限の関わり」にとどめることを大切にしています。そして一日の終わり、職員室に集まったスタッフ同士で「今日のあれ、すごかった」と感動を分かち合うことが、私たちの最高の喜びです。
これからも子どもの豊かな世界を守り、大人も一緒になって感動しながら、心も体も伸びやかに育んでいきたいですね。
田中施設長からは、子どもたちに対する深い敬意と惜しみない愛情がまっすぐに伝わってきました。
研究データに見る、裸足で過ごす環境と足部の発達
裸足保育がもたらす有効性は、近年、研究分野でも明らかになってきました。
東京工科大学の専任講師・高木健志さんが行った「足部の発達」に関する研究において、どろんこ会は3年間の研究協力を行いました。本研究では、3Dスキャナによる足の計測と、日々の生活習慣に関するアンケート調査を実施。その成果をまとめた研究論文「3〜6歳の保育園児の足部の発達と生活習慣の影響」は、2025年10月、第35回日本保健科学学会で「優秀演題賞」を受賞しました。

高木さんは研究成果について、「どろんこ会に通う5・6歳の子どもたちの足を調べたところ、小学校低学年相当の足部のアーチ(土踏まず)が形成されていることが分かりました」と話します。
土踏まずは、地面からの衝撃を和らげる「クッション」と、力強く前へ進むための「バネ」という大切な役割を担っています。足裏のアーチが育ち足指でしっかり大地を捉えられるようになることで、姿勢やバランス感覚が安定し、運動能力の向上や怪我の予防にもつながると言われています。

「蓄積したデータを複合的に分析すると、足のアーチがよく発達している子どもには『しっかり眠る』『足裏の感覚入力が豊か』『日中の活動性が高い』という共通の傾向が見られました。 裸足で過ごすことで得られる足裏への刺激や活発な活動が、質の良い睡眠を促し、その健やかな生活リズムが土台となってアーチの形成を後押ししていると考えられます」(高木さん)

裸足保育で養われる健やかな体と豊かな感性、そして無限の創造力。心も体も使い切り、夢中で過ごす「今日」の積み重ねが、子どもたちの「生き抜く力」をゆっくり着実に、育んでゆきます。
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