台湾出身スタッフが語る多文化共生 保育現場で「知る」ことから始める

2022.05.12

#学ぶ

勉強会

日本に暮らす中長期在留外国人の数は年々増えています。それに伴い国籍はもとより、母語、母文化、宗教、生活習慣など、多様な背景をもつ子どもたちが日本に暮らしています。

どろんこ会グループの施設においては、約6000家庭の利用者のうち、3.5%が外国籍の方です(2021年11月自社調べ)。

アンケート結果
外国にルーツをもつ児童・家庭数アンケートより

どろんこ会グループは、年齢の違い、障害の有無にかかわらず、すべての子どもが共に生活し、それぞれの個性のぶつかり合いを経験し、違いを認めて頼り合い、手を差し伸べ合うことを学んでいくことが、共生社会に向けての土台づくりだと考えています。同じように、国籍や言語、文化の違いを理解することで、未就学の時期から多文化共生(※)の素地をつくっていくことにも注力していきたいと考えています。

※多文化共生:国籍等の異なる人々が、互いの文化的差異を認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくこと。(総務省「2006年3月多文化共生の推進に関する研究会報告書」にて定義)

そこで、今回はその第一歩の取り組みとして「『知る』からはじめる乳幼児期の多文化共生」という社内講座を開いた広報部の曾(そ)さんに話を聞きました。

台湾出身の曾さん
台湾出身、大学卒業後来日し、どろんこ会に入社した曾さん

保育業界との出合いは偶然 日本語を使って働きたい一心で台湾から来日

曾さんは台湾生まれの台湾育ち。大学卒業後に来日し、どろんこ会グループに就職、在留外国人の当事者です。日本語能力試験JLPTの最難度「N1」を取得し、仕事もこのインタビューもすべて日本語で行っています。

—曾さんが日本文化に初めて触れたのはいつごろですか?

「小学校6年生の時です。台湾では日本のテレビドラマを字幕付きで放送していて、当時『野ブタ。をプロデュース』を見て、日本の高校生活にあこがれました。また、母が若いころに日本に留学をしたかったという話を聞いていたこともあり、日本に興味をもつようになりました」

—初来日はいつでしょうか?

「中学生のころに東京に旅行で来たのが初めてです。街並みや空気がきれいだなと思ったことを覚えています」

中学時代に初来日
中学時代の旅行で初来日

日本への興味が高まり、日本の高校に通いたいと思うようになった曾さん。ところが制度的に高校留学はかなわず、台湾で日本語学科のある大学に進学しました。

—日本で働くイメージがあったのでしょうか?

「大学入学前にも日本語については独学で学んでいましたが、交換留学やインターンができることを念頭に大学を選び、入学後に文法や会話、歴史を学びました。インターンでは滋賀県のホテルで3カ月間過ごしました。その時に日本人の仕事に対する思いに刺激を受けたんです。今でも印象に残っているのが『100%できないのであれば、できないと正直に言う』『自分にとって常識であってもそれは他人に対して非常識であるかもしれないことを常に覚えておく』という教えです。ホテルには日本のお客様に限らず、世界各国のお客様がいらっしゃるので、日本のやり方を押し付けるのではなく、柔軟に対応できるように心がけていました。このインターンを通して日本で働きたいという思いが強くなりました」

滋賀県のホテルでインターンを経験
滋賀県のホテルでインターンを経験

—大学3年の就職活動中、台湾での合同説明会に出展していたどろんこ会と出合いました。その時の印象は?

「どろんこ会のブースだけが楽しそうで、そこで見せていただいた資料には子どもたちの姿がたくさん掲載されていて、それを見ながらわくわくして話を聞いたことを覚えています。保育業界についてはこの時初めて知りましたが、まずは日本語を使って働くことを第一に、職種は問わずチャレンジしようと考えていました」

—実際に日本で生活してみて驚いたことなどは?

「どうしたら日本で働けるかで頭がいっぱいでしたので、実は生活面のことは全然考えていませんでした。家探しから携帯電話の契約などすべて0からのスタートでした。来日後に特に驚いたのはごみの分別です。台湾では日本ほど細かな分別をしていませんでした。また、挨拶にも驚きました。ご近所の方も皆さん挨拶してくださいます。台湾では面識のない方とは基本的に挨拶を交わさないので、日本人は礼儀正しいと思いました」

—来日前に不安はありましたか?

「日本人は外国人に対してあまり親切ではないという話を来日前には耳にしていました。またインターン中に、接客や電話対応で外国人であることを理由に拒否されたということもあり悲しい思いをしたこともあります。ただ、どろんこ会グループに入社後はそういったことは全くありませんでした」

保育、食育、各国の文化の違いを学ぶ社内講座開催

曾さんはどろんこ会グループに入社後、3カ月間保育の現場で研修を受け、その後人事総務部に配属され、当時は中国からのご見学者様のアテンドがメイン業務でした。現在は広報部に所属し、外国籍の保護者の方のサポートや文書の翻訳をはじめ、社内広報を中心に担当しています。

コロナ前は海外からの視察を多く受け入れていました
コロナ以前は中国からの視察を多く受け入れていました。今はオンラインで理事長による講演を受けています

—今回、多文化共生に関する社内講座を開こうと思ったきっかけは?

「視察でグループ内の施設を回った際、中国をはじめ、さまざまな国のお子様が保育園に通われていることをあらためて知りました。また、現場のスタッフからも保護者様への対応について相談されることもありました。今後も日本に暮らす外国人が増える未来を踏まえ、何か現場の力になれないだろうかとずっと考えていました。私は保育士ではないので専門的なアドバイスはできませんが、私のバックグラウンドを通じ、異なる文化を『知る』『理解する』ための情報共有の場をつくることならできるのではと考え、企画しました」

社内向けの多文化共生講座を実施
スタッフ向けに実施した社内講座

現場スタッフが参加しやすいよう、時間は子どもたちが午睡に入る13時からの40分間とし、短時間で聞きやすい内容にしました。全3回に分け、第1回目は2021年12月に「アジア圏の保育文化の違い」、第2回目は2022年2月に「食育文化の違い」をテーマに実施、第3回目は5月に「年中行事の違い」を予定しています。

各回では、どろんこ会グループに通う外国籍のご家庭で最も多い中国、次いで韓国の事例や、曾さんの母国である台湾を例に挙げ、各国の文化について紹介がありました。

講座の様子
アジアを中心に保育文化の違いを紹介

第1回目の保育文化では、幼児教育における各国の政策が反映されていることが分かり、日本との違いを実感する内容となっていました。中国においては幼児期から勉強に力を入れており学力競争が過熱していることや、韓国政府が推進する幼保一体化における「ヌリ課程」について初めて知った参加者も多くいました。そういったバックグラウンドを知ることで、ただ「こうしてください」と一方的に伝えるだけでなく、保護者にも寄り添うことができるのではと、曾さんからのアドバイスもありました。

また、第2回目の食育文化のテーマにおいては、韓国では食器を持ち上げて食べることはマナー違反であることや、「いただきます」というのは日本特有の言葉であることなどを話し、日本の常識を押し付けないことの大切さを伝えました。

保育現場でも「知る」姿勢を大事に 幼少期からの多文化共生体験を大事に

実際に講座に参加したスタッフからはこのような感想が上がりました。

  • 相手の国を知ることが保護者支援につながり、また日本の常識を押し付けてはいけないことも納得できました。相手のバックグラウンドを知って寄り添うことの大切さも共感できました。
  • これから多国籍の方が日本に来ることも多くなってそれが当たり前になる時がくると思うので、互いに尊重する気持ちを忘れずに、まず知ることから始めて過ごしやすい環境で共に生きていけたらなと思いました。
  • 自園にも外国籍のお子様がいます。入園当初は日本語も通じず、会話ができず、関係を作るのが難しかったです。翻訳機を使ったり、絵カードを使ったりと試行錯誤して今に至ります。多文化を私たちが理解して接することが必要だとあらためて感じました。
  • 曾さんに今後、日本が多文化共生社会を形成していくために必要なこと、そして曾さん自身が挑戦したいことを聞いてみました。

    「時々、スタッフから『英語を話すことができないから何もできない』『外国籍だからこうなのでは』といったことを耳にすることがありますが、先入観で物事を決めつけない方がよいと思っています。また、相手の文化や言語を知らないからではなく、まず『知って理解する』という姿勢を見せることで、相手の心も動かすことができるはず。まずは私たち大人が『知って理解する』姿勢をもつことが必要ではないでしょうか。私はこの先、人種や国籍の違いでの差別をなくしたいと思っています。だからこそ、子どもたちには国籍や言語、文化の違いへの理解を実際に体験しながら深めていってもらいたいと願っています」

    渋谷本社で勤務中
    渋谷本社で勤務中

    先日、どろんこ会グループ広報部は文部科学省の国際教育課の方と面会し、外国人児童の小学校への円滑な接続と学校教育を見据えて保育者ができることについて意見交換を実施し、そこでもやはり異文化理解の重要性についてお話いただきました。

    何よりもまずは「知る」から始めることを大事に、どろんこ会グループではスタッフの多文化共生への意識醸成を図り、子どもたちに多文化共生社会の未来を生きていく力を育んでまいります。

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