早稲田大学大学院の研究にどろんこ会が協力 学童x保育園 併設施設の可能性を探る(後編)

2023.08.17

#調査・研究

日高どろんこ保育園 日高どろんこ学童保育室

前編に引き続き、学童保育室と保育園の併設施設について調査を進められた早稲田大学大学院人間科学研究科佐藤将之研究室の三國さんのインタビューをお届けします。後編では、今春多くのメディアで報道された学童の待機児童問題や学童保育の質についてもご意見を伺いました。

早稲田大学大学院の三國さん
早稲田大学大学院で研究を続ける三國さん

「足りない」を「複合」にして可能性を広げる

—保育園が淘汰の時代と言われる中、学童保育室の待機児童問題が指摘されるようになりましたが、調査に携わる中でこの問題について三國さんはどうお考えでしょうか?

学童保育所の数が不足している問題がある一方で、保育所の数は充足しつつあり、定員割れの課題もあります。(関連リンク参照)

保育所といえば、以前は数が足りなくて、いかに増やしていくかが課題になった時期もありました。少子化が進展している現状を踏まえると、今は学童保育所が足りず待機児問題が注目されていますが、いずれは学童保育所も定員割れになっていくことが予想されると思います。そう考えると、保育所が足りないから増やす、学童保育所が足りないから増やす、というように保育所は保育所、学童は学童、とそれぞれ分けてバラバラに考えるのではなく、連携し、つながり合い、複合していくことで子どもたちが健やかに過ごせる居場所の可能性が大きく広がっていくのではないかと思います。例えば保育所と学童の複合化によって、ハード面では学童の子どもたちの居場所を確保するだけでなく、ソフト面では乳幼児と学童の子どもたち同士の異年齢交流が広がる、といったプラス面も生まれることになるでしょう。学童の子どもが園児と一緒に生活することで、自分より小さい子へのいたわりの気持ちが生まれ、助けてあげようとか見守ってあげようといった思いや行動につながることも考えられます。「養護性」という言葉があります。名古屋大学の名誉教授で発達心理学がご専門の小嶋先生は、養護性を「相手の正常で健全な発達の促進のために用いられる共感性と技能」※1と定義しています。また、養護性は「大人になって子育てをする際に顕在化するのではなく、小さい頃から育まれていくという生涯発達の視点を含んでいる」※2と、横浜創英大学こども教育学部の楜澤准教授(2011)は指摘しています。

園児と小学生の交流の様子
学童の子どもと園児が関わり養護性を育む

学童の子どもが園児との関わり合いを通して、養護性を育むことにもつながっていくと思います。また園児にとっても、学童の子どもがいることで関係性が広がることが考えられます。例えば、保育園で年長クラスの子どもにとっては、いつもは一番年上で小さい子へのお世話をする立場であっても、学童の子どもが身近にいることで、お兄さんお姉さんに時には甘えることもできますよね。一人っ子や兄弟の少ない子どもにとっては、異年齢交流が擬似兄弟関係になることもありそうです。

このように、昨今の学童待機児問題の「足りない」という課題を、「複合」という視点でとらえると、可能性が広がっていくように思います。

※1 小嶋秀夫「子どもの養護性の発達」『乳幼児の社会的世界』8章,有斐閣選書,1989

※2 楜澤令子「幼児期における乳児の対する養護性(nurturance)測定法の検討―幼児が乳児をどうとらえているか」発達研究Vol.25,47-54,2011

子どもの成長を見据え、豊かな時間を過ごせる併設施設を

—学童保育の質も課題に挙げられます。その点についてはいかがでしょうか?

小学生の放課後の時間は、子どもの大事な生活の時間であることが大前提としてあると思います。学校の延長ではなく、子どもが心からくつろげる時間、場所、雰囲気、その場所に自分が居ていい、と感じられる居場所で過ごせることが大事ではないでしょうか。

思い思いに過ごす子どもたち
思い思いに過ごす子どもたち

こども家庭庁の調査研究※3では、「子どもの居場所」として学童保育所が挙げられています。小学生が過ごす場所として令和4年5月時点で約139万人の子どもが学童保育所を利用していることから、「学童保育所」は全ての子どもや若者を対象とする居場所に分類されています。この調査結果では、「居場所がある」と回答したこどもや若者が、どのような場所を居場所と感じているかを調査していて、18歳以下では「好きなことをして自由に過ごせる」と回答する割合がもっとも多い結果となっていました。例えば「子どもは元気だからみんなでわいわい過ごすのが好きだろう」と大人が勝手に活動を意味づけするのではなく、子どもが自分で選んで、好きだからいる、好きだからやっている、という自由な時間と場所、子どもの自主性を担保することが必要だと思います。

※3 内閣官房こども家庭庁設立準備室「こどもの居場所づくりに関する調査研究報告書」令和5年3月
畳が心地よい日高どろんこ学童
日高どろんこ学童の1階は畳でくつろげる

日高どろんこ学童保育室で研究調査をさせていただいた際、学童の子どもたちに保育所も含めた日高どろんこの施設全体の中でどの場所が好きか、インタビューさせていただきました。みんなで過ごせる「園庭」や「学童保育室の1階」を回答した他に、「学童保育室の2階」を挙げた子も多くいました。2階を見学させていただいた時、1階のにぎやかさとは違って、天井が少し低くて、秘密基地にこもる時のようなワクワクする感覚だったことを今でも覚えています。2階には本棚があって、そこで静かに本を読める場所であることも魅力の1つだなと感じました。「学童保育室の2階が好き」と答えた子にその理由を聞いてみると、「疲れている時に上に行くとゆっくりできるから」「本が読めてリラックスできるから」「落ち着くから」「静かにしたい時に行けるから」と答えてくれました。また、「仲のいい友達が帰っちゃった後、2階に行く」と答えていた子もいて、2階は静かにリラックスできる場所であり、一人でいても安らげる場所であることが分かりました。

このように、のびのびと体を動かしたり元気に動き回れる「動」のスペースと、静かに落ち着いて過ごせる「静」のスペースの両方があることと、子どもが行きたいときに、どちらにもアクセスできることがとても大切なことだと感じました。

静かに過ごせる2階の様子
学童の2階では本を読んで静かに過ごすことができる

先ほどお話しした、保育所と学童が複合した施設の可能性の話にもつながりますが、保育所は保育所で過ごす子どもの乳幼児期、学童は児童期と、その施設で過ごす子どもの発達段階だけでなく、前後の発達段階も見通す視点もとても大事なのではないかと思います。一人の子どもが乳幼児期から児童期へ、児童期から青年期へと、成長発達していく視点、学童であれば学童期以降のことも見据えた長い目で見る視点が大事だと思います。小学生にとって、自分よりちょっと小さい園児さん、自分よりちょっと大きい中学生のような、ちょっと先をいく年上、ちょっと前に自分がそうだった年下、のような近い年齢との関係性である「ナナメの関係性」があることで、同年代の子ども同士の関係性に行き詰まった時に気持ちの切り替えになったり、これからの自分の将来をちょっと見通せたり、少し前の園児時代を振り返ることで小学生になった今の自分の成長を感じることができたりと、「小学生の今」だけにフォーカスしすぎないことで、自分の成長を展望することにつながるのではないかと思います。学童保育所が開かれ、園児との交流があったり、また中学生がたまに戻ってこられる場であったりすることで、結果として学童の子どもにとって豊かな時間を過ごせる居場所になるのではないでしょうか。

学童を併設した新たな施設がオープン
2023年4月にオープンした香取台どろんこ学童保育室る

どろんこ会グループでは今年度、日高どろんこ学童に続く二つ目の学童保育室「香取台どろんこ学童保育室」を茨城県つくば市に開設いたしました。グループとしては初となる保育園x児童発達支援事業所x学童保育室x放課後等デイサービスの併設施設となります。子どもにとっても大人にとっても居場所としての可能性が広がる併設施設は今後も要注目です。

施設情報

日高どろんこ保育園

日高どろんこ学童保育室

日高どろんこ保育園のブログ

関連リンク

佐藤将之研究室 | 早稲田大学 人間科学学術院

「保育所等関連状況取りまとめ(令和 4年 4月 1日)」を公表します※4

※4全国の保育所等利用定員は304万人(前年比2.7万人の増加)、保育所等を利用する児童の数は273万人(前年比1.2万人の減少)であり、保育所等利用定員が増加する一方で、利用する児童の数は減少しているとのこと。

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