看護師が「保育×発達支援」に挑戦 フルインクルーシブ施設で働く魅力をインタビュー
2025.08.14
どろんこ会グループが運営する認可保育園と発達支援つむぎの併設施設では、双方のスタッフが共に全ての子どもを育てています。中でも2024年、東京都東大和市に開園した「東大和どろんこ保育園」と「子ども発達支援センターつむぎ 東大和」(以下、つむぎ 東大和)は、両施設の間に壁のない東京都初のフルインクルーシブ施設。ここで看護師の資格を生かして働く牧野さんと黒澤さんに、どろんこ会ならではの魅力と仕事のやりがいについてお話を伺いました。

看護師から保育・発達支援の道へ
ーお二人のこれまでのキャリアを教えてください
牧野さん:もともと保育や介護業界に興味がありました。同級生に発達障害のある子がいたり、祖父母と同居していたり、幼い頃から身近なテーマだったんです。進路を決める時どちらにも役立つ看護師の資格を取ろうと決めて、まずは基礎を固める目的で大学病院に入職しました。

黒澤さん:私は看護師の資格を生かしてさまざまな職場を経験してきました。総合病院の脳外科から町の小さなクリニック、健診センター、そしてどろんこ会とは別の保育園で「保育兼看護師」として働いたことも。
でも、そこでは怪我の処置や乳児担当など特定の業務を割り当てられることが多く、なかなか全体の保育に携わることができませんでした。結局その後、産婦人科に転職。転々とし続けていますね(笑)。

ーどろんこ会に入ろうと思ったきっかけは何ですか?
牧野さん:大学病院で働いて約10年、研究や教育が一段落して少し肩の荷が下りた気がしました。いよいよ新しい世界に飛び込む時期かな、と。保育と介護のどちらにするか迷っていた頃「東京都初のフルインクルーシブ保育園」という情報が目に止まり、「ここだ」と思いました。
ーインクルーシブ保育に興味があったのですね?
牧野さん:はい、同級生の存在が一番大きかったです。コミュニケーションが苦手で、もうずっといじめられていて。「友達として守らなければ」と本人が言えないことを代弁していましたが、自分もいじめられるんじゃないかと葛藤もありました。もっと自分にできることがあったのではと心に残っており、過去のことを見つめ直す意味でもインクルーシブというテーマは魅力的だったんです。看護師の資格を生かしつつ保育者の一員として働きたい希望があったので、今回の応募は自分にぴったりだと思いました。
ー黒澤さんとどろんこ会の出会いも教えてください
黒澤さん:産婦人科で不妊治療に携わる中で、「子どもって本当に奇跡なんだ」と実感しました。子どもに性教育について語れるようになりたかったし、これまでの経験すべてを生かしてもう一度保育にチャレンジしたら、どんなことができるだろうって。保育士も専門士も混ざり合って子どもを育てるどろんこ会の方針に共感し、入職を決めました。

やりたいことを全力でサポートしてくれる仲間がいる
ー実際に保育に挑戦してみていかがでしたか?
牧野さん:とにかく「楽しい!」の一言に尽きますね。どろんこ会では保育者の一員として、保育士と同じようにシフトを組んで保育にあたります。子どもの成長を日々一番近くで見られることがまず大きな魅力です。
今年は医療的ケアのある子どもが入園しましたが、どろんこ会では全ての大人が全ての子どもを育てる方針で他のスタッフも関わるため、看護師が付きっきりになることはありません。東大和は地域の障害児支援を担うセンターだからこそ、より幅広い障害や病気について新たに学ぶことも多く、世界が広がる楽しさを感じています。
それに、子どもって意外と誰にどんな障害があるかを気にしていないことも発見でした。「色々な子がいて当たり前」という環境の中で、このまま偏見を持たず、純粋な心で成長してくれるんだろうなと実感できるのもうれしいポイントです。
ー黒澤さんにとって保育は2度目の挑戦です。前職との違いはありましたか?
黒澤さん:まず「保育って自分が楽しんでいいんだ」というのが驚きでした。最初の配属先だった中里どろんこ保育園(東京都清瀬市)の先輩に教えていただいたのですが、自分が本気で楽しんでいるといつの間にか子どもも参加してくれるんです。実際、泥だらけになって遊ぶのは本当に楽しいんですよ(笑)。
また、保育園の看護師は「一人職種」で孤独を感じることも多いのですが、ここではみんなが仲間でした。困ったり悩んだりした時はいつでもアドバイスやサポートをくれる同僚がいる。看護師として特別扱いされることなく保育に専念する中で、少しずつ自分の取り組みたい方針が見えてきました。
ー「取り組みたい方針」とは何ですか?
黒澤さん:看護師同士のネットワークを作ろうと思ったんです。清瀬市にはどろんこ会グループの保育園が4園あり、各園に一人ずつ看護師がいます。この4人で看護師ならではの視点を共有する場があったらといいな、と。施設長に相談すると了承を頂き、実際にグループチャットを作ることができました。
グループチャットでは感染症の報告や戸外活動の危険スポットなど地元ならではの情報を共有したり、毎年園で行うエピペン※1や嘔吐処理などの保健業務研修に向けて、看護師だからこそ伝えたいポイントやメッセージをブラッシュアップしたり。スタッフ一人ひとりの試行錯誤を応援してくれるのもどろんこ会ならではの風土です。
中里ではやりたいことをやり切ったので、新しい環境に挑戦しようとつむぎ 東大和の開園に合わせて異動の希望を出しました。
※1アナフィラキシーショックを受けた時の自己注射薬

保育を楽しみながら看護師としてのやりがいも
ー保育や発達支援の場で看護師が果たす役割は何でしょうか
黒澤さん:「年間保健指導計画」を立案したり、年に4回実施する「保健会議」に参加し、計画目標に基づいた報告や省察、提案を行ったりします。普段は保育者の一員として保育にあたっていますが、このような保健業務の時間は別に設けられています。
子どもに対しては月に一度「保健指導」を行っています。歯磨きや手洗い、排便や体の働きについてなど「いま子どもに伝えたいこと」をテーマに全職員で内容を決めています。
牧野さん:保健指導の後、保護者の方から「今日おうちで手洗いをがんばっていました」とか「園で教わったことを話してくれてうれしかった」などのお話を聞くと、私たちの指導が家庭にも少しずつ浸透していることが分かってやりがいを感じますね。
黒澤さん:当然ですが、病院は病気を治す場所なので「退院したら終わり」なんです。保育や発達支援の場では、私たちの関わりが子どもの成長につながる様子を見続けられるのも大きな魅力の一つですね。

ー併設園ならではの良さや難しさはありますか?
黒澤さん:開園当初から、宮澤施設長から「『保育園とつむぎに1名ずつ』ではなく『看護師2名在籍』という考えでいってほしい」と言われていました。その言葉通り、ほとんどすべての保健業務を2人で相談しながら進められるので心強いです。
牧野さん:フルインクルーシブ施設は東京都でも初の試みで、試行錯誤は尽きません。でも、どろんこ会には対話の文化が根付いています。子どもにも「思っていることは言葉で伝えないと人の気持ちは分からないんだよ」と伝えたい。だから、まずは大人がその背中を見せていきたいですね。
自分の心と体について「発信する力」を育みたい
ーお二人の今後の目標を教えてください
黒澤さん:つむぎ 東大和は地域の障害児支援における中核的な役割を担っています。今後は子どもや保護者の方が健康や病気に関して気軽に相談できる「看護師相談」の窓口を設けるなど、家庭や地域の貢献にも力を入れていきたいと思います。

牧野さん:保育と並行して、子どもたちには「自分の健康を守り保つこと」を大切に伝えていきたいですね。自分のことは自分にしか分からないので、「なんか今日はイライラするな」とか「何となく頭が痛い」など、自分の心と体について自分の言葉で発信できる力を育みたい。それがどろんこ会の掲げる「生きる力」にもつながると思うし、これからの時代、ますます重要になると思っています。
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