安永理事長と高堀代表が語るどろんこ会グループの2025年度~原点回帰、そしてその先へ~
2025.04.24
新年度が始まりました。安永理事長と高堀代表に、2025年度をどのような年にしたいか、2024年度の振り返りとともにインタビューしました。

スタッフの「にんげん力」がさらに高まった2024年度
—2024年度のスタートに際し、安永さんは「各地で子どもたちに生活力、思考力を育む、質の高い保育・教育を、あらためてフロントランナーとして取り組んでいかなければならない」と語っていました。振り返っていかがでしょうか?
安永:どろんこ会グループではかねてより、子どもたちが生活力を体得できるような活動に力を入れてきました。針仕事や工具に触れたり、火や水、土に触れる活動を通じ、危険なものとの距離の取り方を教えることを大事にしています。
とはいえ、生活力を身につけなさいといって身につくものでもありません。子どもたちが直接触れることのできる環境構成が重要となります。

高堀:実際に各園に行くと、子どもたちが自然に雑巾がけをしていたり、ヤギや鶏の世話も決まった時間以外でも子どもたちが自発的に集まって小屋掃除をして、糞をたい肥置き場に持って行ったり、そういった「労働」が生活の一部になっているのを実感しました。大人が「やるよ」と指示するのではなく、能動的にやりたいからやっている。子どもたちの生きる力を育む環境が整ってきていると感じました。
安永:例えば、日々の給食のご飯を、園庭にぬか釜を出して炊いている園もあります。ぬか釜で炊くには杉の葉やもみ殻に火をつける必要があります。火との距離の取り方も「指導」ではなく、日々の生活の一部の中で体得していけるのです。

今、全国の各施設で、施設長、主任、そしてスタッフが試行錯誤しながら工夫をして環境構成をしています。また、言葉で子どもを動かすのではなく、日々の生活の中でスタッフが背中を見せてきたからこその結果だと感じています。
どろんこ会グループが長年続けている命をいただく活動についても同じことが言えると思います。魚をさばいていただくのは全施設で当たり前に行ってきましたが、2024年度は、実際に飼育している鶏をスタッフが自ら絞めてさばけるよう、スタッフ主催で研修を各所で開いて、実践につなげていました。現場自体の進化と、スタッフの「にんげん力」の高まりを感じた一年でした。

また、私たちが長い時間をかけてバージョンアップを重ねてきた性教育やインクルーシブ保育について、私だけではなく複数の施設長が北海道、茨城県、広島県などの保育団体や自治体に講師として招かれて研修や講演を行いました。業界全体が今までの保育から次の時代に合った保育へと脱皮していく過程にかかわることができたと感じています。これは施設長自身の学びや成長の場ともなりました。こうした現場のスタッフが語れるようになったことは、「インクルーシブ保育のパイオニア」である法人から、施設長が「インクルーシブ保育のフロントランナー」に変わった年ともいえるでしょう。

子どもの人格形成期にこそ質の高い教育を確実に丁寧に
—2025年度の施設運営ミッションのメインテーマは「原点回帰」となりました。
安永:私たちは子どもたちの人生において最も大事な人格形成期にかかわる仕事をしています。だからこそ1分1秒をとにかく大切にして、人格形成にこだわった質の高い教育を確実に、丁寧に行っていこうと、全体研修を通じて全スタッフに伝えました。
2007年にグループ初となる認可保育園、朝霞どろんこ保育園を開園して以来ずっと、私たちの名刺には必ず次のメッセージが刻まれています。
「畑仕事、ヤギ、鶏の小屋掃除、糞の始末、雑巾がけ、銭湯での裸の付き合い。私たちは、真に必要な体験を追求し、にんげん力を育てる保育園です」

今の園児が大人になるころの日本は、外国人や高齢者、ロボットなどを相手にAIなど多種多様なツールも駆使しながら社会課題を解決しなければならない時代となります。だからこそ、一日一日を大切にし、手間やコストがかかっても、人格形成期にこそ「ホンモノの体験と労働」にこだわり、子どもに必要な経験を用意し、背中を見せて労働を教える大人たちでありたいという思いをこのメッセージに込めました。

全施設、全スタッフが、創業当初から変わらないこの思いをもって、子育てできているかどうか。あらためて問いかけ、原点に立ち返る必要があると考えました。こうした基本がぶれない組織づくりをしたうえで、各施設が自律的に行動できることが大事なのです。
—ミッションの発表があった全体研修においては、「昭和平成の療育を今なおやり続けていないか?」という問いかけもありました。
ここまでの10年間、私たちはインクルーシブ保育のパイオニアとして走り続けてきました。ただ、2025年度は保育と児童発達支援の「混ざる」のその先に絶対に進む年、という決意表明をしたいと思います。
発達障害は脳の特性であり、病気ではないということが明らかとなった今、治療や小学校ではみ出さないための訓練をするのではなく、健常児と同じように生きる力を獲得していくための教育環境をどうつくっていくか、今行うべき支援はどういうものなのかを具体的な計画を立てて挑戦する年だと思っています。

生きる力は障害の有無にかかわらず、全ての子どもが後天的に身につけることのできる力です。私たちは人格形成期の限られた時間に、10よりも100の経験ができる環境を構成し、一人ひとりが自分の「好き」と「得意」を探索できるようにしたいと考えています。これまでも取り組んできたことですが、あらためて全スタッフに「どの部屋で何をしたいかを子ども自身が選択できる工夫をしていますか?」「椅子に座らせて訓練をする必要があるのでしょうか? 周囲に助けてもらいながら、自分の足で人生を歩んでいくための支援は屋外でできないのでしょうか?」と問いかけることで、施設ぐるみで支援の在り方を考えてもらいたいと思っています。
就労支援ではコーヒー販売に注力 農業は地域課題解決に貢献
—就労支援の現場では、2024年度はコーヒーの販売に注力した年だったかと思います。
高堀:株式会社ヘラルボニーとの共創をはじめ、株式会社東上セレモサービスのレストランでの採用、HRソリューションズ株式会社の記念式典での贈答品としての採用、Heartkids’LIFELINKのクラウドファンディングの返礼品に採用されるなど、さまざまな企業との取引が広がった年でした。また、ECサイトも整え、オンライン販売が可能となり、利用者の工賃も着実に上がり、2025年度には東京都の平均を超える見込みです。ただ、私たちは東京都で一番工賃の高い事業所となり、利用者の方にはさらなる達成感と喜びを感じながら仕事にまい進してもらえるような施設を目指しています。

—株式会社Doronko Agriについては農地の拡大をさらに進めた年でした。
高堀:2024年8月に農地所有適格法人エムズ水楽園ファーム株式会社(埼玉県上尾市)を合併し、フルーツトマトの生産も始まりました。農地はトータルで約5ヘクタール(2025年4月現在)の広さとなり、各施設の給食に使えるよう流通経路も整えた1年となりました。現在、玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、さつまいも、栗、白菜、レタス、大根、スイートコーンなどを栽培していますが、さらに品種と量を増やし、拡大していく予定です。

—株式会社南魚沼生産組合の動きはいかがでしょうか?
高堀:2024年度の初めにも伝えたジビエの解体加工施設とクラフトビール醸造所については順調に工事が進み、2025年度に完成を見込んでいます。

2025年度以降もさまざまな自治体での保育園と児童発達支援施設のインクルーシブ施設の開園が続きます。その際、自治体の首長と話す機会も多いのですが、一保育事業者にとどまらず、私たちのこれまで培ってきたノウハウを使って、地域の課題をどう解決するか、地域をどう活性化できるかについての提案までを期待されているのを感じます。それはやはり新潟県南魚沼市での実績があるからでしょう。
2025年度以降も、これまでに蓄積してきた保育、発達支援、就労支援、農業の経験をフル活用し、また2024年度に発足した旅行事業部と連携しながら、子育てを起点とした街づくり、地域課題の解決を目指していきたいと思います。
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